それでも飛び続ける
それは東北での出来事だった。
私は、遅めのモーニングを食べに行くために、一回り年上の友人夫妻の車の後部座席にいた。前日の夜は、しこたま酒を飲み、珍しく酷い二日酔いであった。多少のちゃんぽんは良いが、日本酒とワインは合わせるものでは無い。
酔い止めを服用し、これでもかというほど水分をとり、車に乗り込む。
道中は、夫妻と会話をしながら、瞼がくっつきそうで、常時うつらうつらとしている状態。
ふと、目を開け、空を眺めてる。
左方から白鳥が飛来してきて、「あぁ。さすがに広大な田舎道に、こんな立派な白鳥が飛んでくるなんて、絵になるもんだなぁ。」とボンヤリ思っていた最中であった。
鈍い音が響き、奥さんが悲鳴をあげ、サイドガラスを上げる音がする。
一瞬の出来事であった。白鳥が車にぶつかってきたのだ。片翼が車内に入りそうになり、びっくりした奥さんは、悲鳴を上げながら瞬時の判断でサイドガラスを上げていた。
その一部始終を後部座席で見ていた私は、びっくりしながらも、視界の右方へ消えた白鳥を追う。ぶつかりながらも翼を羽ばたかせ、視界を左から右へ移動している。その羽ばたきは、何故かスローモーションのように捉える事が出来た。
視界から消えたので振り向いて、リアガラス越しに探したけれど、それは既にどこかへ消えた後だった。私の視界には、広大な空と田園が広がっていた。
「わ〜びっくりしたぁ!!!」
「だ、大丈夫でした?」
「いやぁ〜白鳥って車にぶつかってくるもんなんだなぁ〜皆、大丈夫?」
煙草をふかせながら旦那さんが言う。ハンドルをしっかり握っていたおかげで、車がスリップするといったような事故にはならなかった。
それからお店に着くまでの道中は、あの白鳥の話で持ちきりで、あっというまにお店に着いた。車を降りて、ぶつかった部分を皆で確かめると、白っぽい粉が付着していた。白鳥の羽はモフモフしていそうだ、血が出ていなくて良かった、なんて話で店内でも盛り上がる。
そんな話の最中、私は、あの白鳥はそれでも飛び続けたんだなぁ、という事をふと思った。
かなり鈍い音がしたので、骨が折れたとまではいかないけれど、捻挫のようなものはしているだろう。保護したり手当しようにも、視界から消えてしまったので、彼は自力で治すしかない。
突然のアクシデント。だが、彼は倒れるでもなく、こちらに敵意を向けることなく、飛び続けた。
それだけは変わらない事実である。
それは何だか、日常のいろんな物事に当てはまるような気がした。
そういったことを遅めの夏休みの中で感じたのであった。
過去と今と未来と #5 〜本と会話
この本を実家に置いてきた。
献本のような形でいただいたもので、本来手元に置くべきかもしれないが、何か実家にいる両親に響けば良いなと思って。
この本の中で、糸井さんが「過去」「現在」「未来」を綴った節があり、自分の考えと非常に近しく、なんだか嬉しかった。
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「ちょっと高級なクラちゃんだね!」
「あぁ。ちょっと高級なクラだなぁ。」
「えぇ。。。ちょっと高級な私ですね。」
オーダーメイドのワンピース。
生地はタグに付けられた数種類から選ぶ事が出来る。
そのタグに値札は貼られていない。
値札の無いワンピースほど怖いものは無い。
ただ、私を含めた3人とも、私に似合ったゆるっとしたワンピースがある、と認識していた。
自分でも着ていそうな、かつ人から見ても着ていそうだね、と言われるものに久しぶりに逢えた。
オレンジ色の洋服以外で。
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実家にいると、何故かいつも以上に眠れる。
私は睡眠が好きだ。
自分の枕でないと眠れなかった人間は、いつでもどこでも眠れるようになってしまった。
その反動か、いざ自分が多くの時間を過ごしていたベッドの上で何事もない状態でいると、いつも以上に眠ってしまう。
枕と布団に身体が貼りついたような、そんな。
睡眠は、夢の世界へ誘う。
夢とは「過去」のパーツを寄せ集めた「現在」とたまの「未来」だと思う。
ある種の希望であり、警告だ。
さすがに連続で死ぬ夢を見るのは、怖いけど、吉夢扱いされているので、前に進むしかないのですよ、こればっかりは。