片方のそれ
「あれ。無い。落としちゃった。」
私がそれに気付いたのは、大学同期の新年会の会場へ向かう道中の事だった。
つい先ほどまで、左耳に付いていたそれは、もうそこに無い。
その日の京都は珍しく雪が積もっていた。バスを使うより、徒歩の方が早く移動が出来る。学生時代の思い出や近況を話しながら、大学同期と移動している最中に気付いた。さっきまでそこにあったはずの物はいつの間にか無くなっている。髪をかき上げようとしたら、大きな輪はそこに無かった。
「戻って探す?それともフードの中とかに無い?」
彼女が言う。
フェイクファーの付いた大きめのフードには、少しだけ雪が積もっているだけ。それの面影は全く無い。改めてポケットにも手を突っ込んでみるのだけれど、やはり入っていないようだ。
「うーーーん。この雪だしね。まぁ、しょうがないか...」
一本道だったら戻っていたのかもしれない。けれど我々の径路は、彼女が久しぶりに京都に来た事もあり、かなり蛇行していたのだ。探してみようにも少し難がある。何より次の開始時刻が迫っている。
「いや〜よく無くしちゃうんだよね。いつの間にか片方だけになっちゃう。」
それを皮切りに、それを買った時の思い出を話し始めた。
旅先の北欧雑貨店で買った物だという事。木を使った一点ものであるという事。けれどもそれほど高価では無い事。友人の結婚パーティーでもつけていた事。3ヶ月ほどしか経っていない事。気に入っていてここ最近はずっと付けていた事。
本当だったら、耳に穴を開けて、付けていれば良かったかもしれない。けれども、耳に穴を開ける勇気が無い事や丈夫な身体を持っておらず、皮膚に影響が出るのだ。今後開ける事はない。その気も特に無い。
少しうだうだと、未練がましく話していると、彼女は言う。
「だったら、ネックレスにしてみたら。チェーンを通せばすぐに出来るよ。そういう巡り合わせもあるやん。また次に良い物に出会えるって。」
見方を変えて、別の物にする事は私の中で思いつかなかった。あぁ、こいつはしばらく眠りについて、もしかしたらもう身に付ける事になるんだろう、なんて思っていた。
学生時代からアクセサリーを作っている彼女ならではの発想かもしれないし、また楽天的な彼女だからこそかもしれない。
「相変わらず良い事言うじゃない。ありがとう、xxxxx。」
ショックな気持ちは少し残っていたけれど、彼女に素直にお礼を言う。彼女の言葉は気持ちを少し軽くしてくれた。
無くしてしまった片方にはもう会えないけれど、今手元にある片方は生まれ変わって、また私のお気に入りのそれとして生きる。またどこかで、似たようなものに出会うのかもしれないけれど、きっと私のお気に入りのそれとはどこか違うのだ。
そういう巡り合わせかもしれない。そういうことかもしれない。
だからこそ、片方のそれを大切にして、また新しい何かに出会う。それの繰り返し。次に出会う物はどんな形なんだろう。ワクワクするけど、またどこかに行くかも。でもそれでも、過ごす時間は楽しくありたいものだ。そう思う。